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 パイプライン爆破の報復攻撃が決まったのは、エチナ・コロニーに知らせが入ってから僅か一時間後のことだった。
 シーモック中佐は部下のACを二機と支援砲撃用のMTを四機引き連れ、旧国境を挟んだアムール・コロニーに向かった。
 アムールとエチナは共に石油が産出するコロニーだが、その原油が産出する地層は地下で繋がっていると言われている。そのため、原油の汲み上げにあたってトラブルが発生し、それが原因でこの三年間幾度となく小競り合いを続けていた。アムールも軍閥が支配するコロニーでパックスの影響下にはない。それも原油の力が大きい。原油の産出はコロニーの存続に関わる。言うなればアムールとエチナは相容れない宿敵同士だった。
 アムール方面に砂嵐が移動したので、航空隊の支援はない。そのため遠方からコロニー外にある石油精製施設を狙う作戦となった。
 双方共、今まで石油関連施設に直接攻撃を仕掛けたことはない。だからこそ小競り合いは長引いていたのだが、今回は相応の報復をする必要がある。
 当然、アムール側のACが迎撃に出るだろう。そうなれば鈍重な支援砲撃用MTは的になる。旧政府軍時代ならいざしらず、今のエチナ・コロニーにとってMTは貴重な戦力だ。支援砲撃用MTの最大射程は二八キロメートル。砲撃を加えた後、MTが安全に後退できる状況を作る必要がある。それにはシーモック中佐らAC隊は囮と殿を兼ねた仕事をしなければならなかった。
 エチナ・コロニーとアムール・コロニーの間には乾いた河床と砂漠の他は何もない。
 三機のACと六機のMTは砂漠の中、砂煙を上げながら進む。
 幾度となく通ったルートだけに部下達はリラックスしている。しかしシーモック中佐の心の中には、はっきりした不安があった。
(ネクストが来ないといいのだが……)
 パイプラインの爆破はネクストの介入を正当化するためにパックスが仕組んだのではないか……そう考えてしまう。タイミング的に良過ぎる。
 だがレイヴンとして、AC隊の隊長として、彼には命令に従う義務があった。
 シーモック中佐はMTを最大射程ぎりぎりの涸れ川(ワジ)の谷間に待機させた。そして幌を被せてジェネレータを止め、可能な限りの偽装を施す。MT隊の指揮を徐中尉に任せ、シーモック中佐は言った。
「お前らの任務は重砲撃隊の代わりだ。ACと戦おうなんて思うな」
 二脚型MTのコクピットから頭を出し、徐中尉はニッコリと笑って答えた。
「ええ。言われるまでもありません。自分は臆病者ですから」
「それでこそオレの副官だ」
 シーモック中佐はモニタ越しに笑って応え、クローラのペダルを踏んで前進した。
 残るAC二機を駆るのは旧政府軍の精鋭部隊員にいた経歴を持つ腕利きだ。シーモック中佐が教導団の客員教授だった頃に指導したことがあり、お互い気心が知れていた。
 三人の戦術はこうだ。部下の二機は四脚の高機動型に仕上げる。そして左右に先行し、スナイパーライフルで敵部隊を遠距離から攻撃。そして重砲撃型のシーモック機の砲撃範囲に敵を誘い込む。
 先行する二機がパッシブ・レーダーのデータを短距離赤外線信号でシーモック機に送ってくる。解析しても哨戒の航空機がいる様子はない。砂嵐で飛べないのだろうが、向こうは報復を恐れて警戒を強めているはずだ。
 アムール・コロニーまで十数キロの地点で、部下のACが敵機の動作音を拾った。同様に向こうもこちらを見つけたに違いない。
 アクティブ・レーダーのスイッチを入れると、五キロ先に敵AC部隊の機影が映った。
『ACは向こうも三機でしょうか。MTらしいのもありますね』
 左翼を行く漠少尉から無電が入る。
『いつも通り行きますか!』
 右翼の曹少尉からも威勢のいい声が入る。
「無理するなよ」
 シーモック中佐の言葉を合図に、二機の四足の高機動型ACはオーバードブーストで砂漠を駆けていく。遅れじとシーモック中佐のタンク型ACも全速前進する。
 両翼の高機動型ACは、アムールAC隊が砂漠の地平線に目視できるところまでダッシュすると、Uターンで引き返した。
 そのタイミングで敵編隊から遠距離砲撃の雨が降るが、砂漠に砂煙を立たせるだけだ。
 そして漠少尉機がオーバードブーストで大きく宙に舞い、大きく拓けた射界からスナイパーライフルを放つ。数発続けて撃って漠少尉は着地、同時に今度は曹少尉がオーバードブーストを噴かし、同じことを繰り返す。
 敵ACの一機が中破し、離脱した。
 すぐさまアムールのAC隊の後方から激しい迫撃砲弾とロケット弾の雨が降ってくる。支援のアムールMT隊からの援護射撃だ。
 砂漠は一瞬で灼熱の海と化したが、漠少尉機と曹少尉機は爆炎の中に身を躍らせ、よろけながらもバランスを取り戻して、砂の上を滑って進み始める。だが二機はシーモック機の二時方向と一一時方向に大きく離れた。おびき寄せるどころか各個撃破されるパターンだが、これもシーモック中佐の想定内だ。
 右を行く曹少尉機が大きく敵AC部隊の後方に回り込み、左を行く漠少尉機が曹少尉機と同じように大きく弧を描き、逆にシーモック機の後方に退く。
 敵AC部隊は二機の機動に反応し、二手に分かれて漠少尉機と曹少尉機を追う。
 そしてミサイル弾の爆撃による砂煙が晴れ上がると、敵AC部隊が無警戒な側方と後方をシーモック中佐に見せてくれる。
 シーモック中佐はタンクのブースタを作動させて機体を上昇させる。そして意図通りに敵部隊をサイト内に収めると呟いた。
「お前ら、あんがとよ」
 シーモック中佐は次々と目標をロックオンし、大口径エネルギー砲でACとMCを追い込み、確実にダメージを与えた。
 向こうの戦力事情もエチナと似たようなものだ。自走して帰投できない事態は避け、被弾したACとMTは後退していく。
 MTとACを二機失い、アムール部隊は撤退を始めた。他の陸上部隊の支援を求め、エチナの侵攻を阻止するつもりなのだろう。
(いい頃合いだ)
 シーモック中佐はMT部隊への合図の信号弾を上げた。その信号弾が真っ青な空に上がり、朱色の輝きが八方に散ると、シーモック中佐らの後方、遥か地平線の彼方の重砲が一斉に火を噴いた。目標はアムールの石油精製施設だ。砲撃は一分間きっかり続いた後、沈黙する。そしてそれが何を意味するものか、アムールのAC部隊も悟った。

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