BACK | Page1 Page2 Page3 | NEXT 黄砂を含んだ風が窓ガラスを叩いていた。 この地方の国家は一世紀以上中央集権制を維持していた。が、沿岸部と内陸部の貧富の差が激しくなるに連れて地方政府が独自性を強め、それぞれ地方軍を抱き込み、自然の成り行きとして内戦に突入した。内戦は大小併せて足かけ三年に及び、多くのレイヴンが名をあげる戦場となった。 そして世界の他の地域でも、宗教対立と資源の奪い合いでテロと内乱にまみれていた。 戦争は経済を疲弊させる。それが世界中に蔓延すれば、誰もそれを止められなくなる。 当時、世界経済が破綻することは誰の目にも明らかであり、もはや一刻の猶予もならない事態に推移しつつあった。 それは武器を供給する側である企業にとって完全なる破滅である。そして手遅れにならない内に、企業は決断した。 己自身で世界の舵を取る。 それが後に国家解体戦争と呼ばれることになる紛争であった。 この戦争は各国家にとって完全に虚を突かれた形となり、また新型AC(ネクスト)の圧倒的な力も合わさって、パックスは僅か三十日で新しい秩序を築いた。 しかし絶対的に駒の数が足りず、パックスは各地方に政府軍の残党が幾つもの派閥を築くことを許した。このエチナ・コロニーもそんな軍閥の一つだった。 シーモック中佐は異国の砂漠を通路の窓から眺めた。昼寝の内に砂嵐は去っており、黄砂を被って根元が埋もれた油井塔をMTと人の手で掘り返しているのが見えた。 ここはかつての国境に近い、油田の街だ。 パックスも油田への飛び火を恐れて強硬な戦略に乗り出さず、エチナは今も独自の産出計画で原油を供給している。 「なんでこんな処まで来ちまったのかなあ」 シーモック中佐はぼやき、整備棟へと急ぐ。 整備棟の中では黄砂の掃除とACとMTのチェックが行われていた。 「完璧にやっておけよ! 俺はまだ死にたくねえからな!」 シーモック中佐は整備班員に声をかけ、数台並んだACハンガーの前を歩く。そして自らのアーマード・コアを見つけると、立ち止まって見上げた。 シーモック中佐の愛機は重砲撃装備のタンク型で、もう十年来のつきあいになる。アフリカ、ロシア平原、東欧、中国大陸と各地を渡り歩いてきた相棒だった。彼は今、コア部分の装甲が外され、燃料電池稼働時の余熱を使った発電タービンユニットを換装されているところだ。 シーモック中佐は整備班員の仕事ぶりを眺め、拳を緩く固める。 ネクストが来る……正面から戦えば被撃墜は免れない。ネクストと従来型AC(ノーマル)にはそれほどの戦力差がある。 ならば何のために戦うのか…… 「オレみたいになって欲しくはないからなあ……お前もそう思うだろ?」 シーモック中佐は胸ポケットから煙草取り出し、火を点ける。紫煙は静かに立ち上り、そしてゆらゆらと消えた。 「中佐殿〜〜!」 整備棟の入口から甲高い声がした。振り返ると副官の徐中尉が小走りで駆け寄ってくるところだった。 「整備棟では走るなと言っているだろうが」 「中佐こそ、ここは禁煙ですよ」 「固いこというなよ。で、なんだよ慌てて。また給与の未払いか?」 「いえ! パイプラインが爆破されたとの連絡が入りました!」 「そういうことは先に言え!」 「中佐が先に、走るなと言い出しましたが」 「そうだったか……? ま、その、なんだ、砂嵐だったってのにご苦労なこったな。全機、出られるように元に戻しておけ」 「了解しました」 徐中尉は大声を出して整備班に命令を伝える。整備班員は不平の声を上げたが、シーモック中佐の鋭い一瞥で整備棟の中は静まりかえる。シーモック中佐は煙草を投げ捨て、踏みつけると、司令室へ戻った。 BACK | Page1 Page2 Page3 | NEXT Vol.1 1 2 3 Vol.2 1 2 3 Vol.3 1 2 3 Vol.4 1 2 3 Vol.5 1 2 3 |